[ No.4]

棚田保全

都市と農村の共同作業
まずお互いを知ることからそれははじまる

 日本の“ふるさと”を象徴する棚田や千枚田。農水省の調査によれば、全国には700余の市町村に約22万1000ヘクタールの棚田がある。しかし、最近は人手不足などの理由から放棄される棚田が多く、1993年だけで全体の16%、約36000ヘクタールが姿を消しているという。そのようななかで棚田の価値を見直し、農村と都市との交流を通して保全しようという動きが全国的にすすめられている。棚田の農業体験ツアーやオーナーを募集して保全をしようと取り組んでいる大江町毛原と、都市からのアプローチを積極的に受け入れている伊根町新井崎を訪ねた。

(文・長谷川菖子)

棚田農業体験ツアーからオーナーになって定住する人も

大江町毛原(1)

■地区の力だけでは、もう守れん

毛原の棚田
農村の原風景がそのまま残る毛原地区の棚田。以前は圃場整備が検討されたこともあったが…
 大江町は「…むかし丹波の大江山鬼ども多くこもりいて…」と小学唱歌に歌われた鬼退治伝説の町。この大江山の麓“酒呑童子の里”に昔ながらの棚田 (千枚田) が残っている。茅葺き屋根の民家と水車小屋がこの千枚田とマッチして風情ある農村風景をかもしだしている。
 棚田保全問題にとりくんだのは毛原地区。人口6000人、45集落からなる大江町は京都府内でも高齢化が最も進んだ町だ。その中で毛原地区 (16戸、43人) は、高齢者専従農家が多くを占め、そのうち独居世帯が五戸と高齢化がもっとも進んだ集落になっている。高低差100メートルある集落の農地は谷間の斜面にあり、転作と高齢化により、棚田は急速に荒廃してきた。以前は1000枚以上あった棚田が現在では650枚近くに減ってきている。
「このままやったら村が崩壊してしまう」という危機感が全体にひろがり、ここ数年村の役員と町が中心に模索を続けてきた。
櫻井
櫻井さん
 同地区のリーダーである櫻井一好さんは、「地区では“将来への生き残りをどうするか”について何回も真剣に話し合ってきた」という。その話合いの中から、農林水産省の「ふるさと水と土ふれあい事業」を活用して、ひとつは農作業の省力化を図るために農道の整備をおこなうこと、もう一つは水車小屋の復元と、あづま家を整備して農村景観を保全しようということになった。一方ソフト面では、都市住民の力を借りながら棚田を保全していこうと棚田農業の体験ツアーを企画した。そしてこれを一歩進めて定住希望者の受入れ体制をつくることが地区全体で確認された。
「もう地区の力だけでは守れませんからね。“よそもの”という排他的な気持ちを持っていては村は行き詰まる」と櫻井さんは語る。

■棚田で収穫したお米で地酒を呑む

 昨年5月11日、同地区の14枚の棚田は賑やかな声で包まれていた。京阪神から家族連れやグループが集まり、コシヒカリと酒米「五百万石」の苗を10アールに植えた。「40年ぶりです」とテキパキと苗を植えていく人がいるかと思えば、田植えははじめてという人がひざまで泥につかりながら農作業にチャレンジ。
 苗を植えたあとの交流会では、参加者は、地元の女性たちの手づくりの山菜料理を楽しんだ。参加者のほとんどがはじめての体験で、「豊かな自然のなかで孫とゆっくり楽しめるのが魅力。冬には植えた酒米のお酒が呑めるというのも楽しみ」「一度田植えをしてみたかった」と、心地よい疲れと手作り料理に充足感を味わっていた。
 “棚田で酒米をつくり美味しい地酒を呑もう”というキャッチフレーズで、都会の人に農作業を楽しんでもらう「棚田農業体験ツアー」の一コマである。

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